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広島高等裁判所 昭和39年(ネ)95号 判決 1966年6月21日

控訴人(被告) 砂田哲雄

被控訴人(原告) 平田一夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張と証拠関係は、次に掲げるほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

控訴代理人は、次のように述べた。

仮りに、控訴人の費用償還請求権を自働債権とする従来の相殺の抗弁が理由がないとしても、控訴人は、次のような利益分配請求権を有する。すなわち、本件地下ケーブル撤去工事によって発掘したケーブルは、長さ約三、五〇〇メートル、重量約五八・五八トン、価額八、八五二、九〇二円五〇銭であり、右工事のための支出額は、控訴人が被控訴人のために立て替えて支払った金一八九、二九〇円を含む合計七、三六四、二九〇円であって、右工事による利益は金一、四八八、六一二円を下らないから、控訴人は被控訴人との約定により、右利益金の半額の分配請求権を有する。したがって、控訴人は、被控訴人に対し、右利益分配請求権を自働債権として、本訴において、被控訴人の本件手形金債権と対等額で相殺する。

被控訴代理人は、次のように述べた。

控訴人の右の主張事実を否認する。

被控訴人と控訴人の間で、右工事に関する損益の分担について紛争を生じたため、昭和三五年八月一三日、三宅三郎の仲裁により、右工事による欠損を金三三万円と見積って、これを折半し、被控訴人と控訴人がそれぞれ負担することとし、被控訴人はすでにその負担額の支払を終ったものと認め、控訴人において、被控訴人に対し、金一六五、〇〇〇円を支払う旨の和解が成立した。したがって、もはや、控訴人の被控訴人に対する利益分配請求権は存在しないにも拘らず、これと異なる主張を前提とする控訴人の相殺の抗弁は理由がない。<以下省略>

理由

控訴人が、昭和三五年八月二六日、被控訴人に宛てて、金額一八〇、〇〇〇円満期昭和三五年一〇月二五日、支払地と振出地尾道市、支払場所広島相互銀行尾道支店と記載した約束手形一通を振り出して交付したことは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第一号証によれば、被控訴人が、満期において支払場所に支払のため右手形を呈示したけれども、その支払を拒絶されたことが認められる。

次に、控訴人の融通手形の抗弁について判断する。

控訴人が、被控訴人に対し、金融を得させる目的をもって本件手形を振り出したことは、当事者間に争いがない。

もっとも<省略>昭和三五年八月二六日、被控訴人も、また、控訴人との合意に基づき、同人に対し、右手形と同一金額・同一満期の約束手形を振出日白地のまま振り出し、これと引換に控訴人から本件手形の交付を受けたこと、控訴人は、昭和三五年八月二五日、協和金属工業株式会社に対し、被控訴人振出の右手形を裏書譲渡して割引金を取得したこと、そして、被控訴人は、昭和三五年一〇月三一日、協和金属工業株式会社に対して、被控訴人振出の右手形金の支払をしたことが認められる。

右の事実によれば、控訴人と被控訴人との間において、一方がその振出手形の支払をなしたときには、他方においてもその手形振出人としての債務を履行すべき合意の存在することを認めることができるから、被控訴人がすでにその振出手形の支払をなした以上、控訴人は、被控訴人に対して、本件手形が融通手形であることを事由にその支払を拒むことはできないものというべきであって、控訴人の右の抗弁は理由がない。

次に控訴人の相殺の抗弁について判断する。

<省略>本件地下ケーブル撤去工事は、控訴人の勧誘に基づき、被控訴人が、控訴人と共同して、右ケーブルを転売して利益を折半する目的で、協和金属工業株式会社から右ケーブルの所有権を譲り受けて始めたものであり、右譲受け代金は被控訴人においてその支払を負担したこと、右工事については、被控訴人が責任者となり、控訴人は、右ケーブルを発掘して被控訴人のもとに運搬し、被控訴人においてこれを売却処分することになっていたこと、被控訴人は、控訴人に対して、右工事に関する一切を委託したものではなく、被控訴人は、会計担当の従業員や人夫を右作業現場に派遣して右工事に従事せしめていたこと本件地下ケーブル撤去工事が終りに近付いた頃、控訴人と被控訴人との間において、右工事に関して控訴人が支出した費用の負担、右工事による損益の分配、並びに控訴人が被控訴人に引渡さないケーブル等の問題について紛争を生じたので、昭和三五年八月一三日、三宅三郎の仲裁により、控訴人と被控訴人の双方とも、計算関係に基づいて種々折衝の結果、被控訴人は控訴人に対し工事金として金一〇万円を支払い、右工事によって生じた欠損の額を金三三万円と見積り、控訴人において支出した費用の負担等の問題も一括して、控訴人と被控訴人が各自一六五、〇〇〇円ずつ右欠損を負担することとし、控訴人の保管するケーブルを被控訴人に引渡す旨の和解契約が成立したことが認められ、原審および当審における控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用できない。右認定事実によれば、控訴人は右工事による利益の存しなかったことを承認し、且つ右和解までに控訴人の支出した費用を右和解の限度以上に被控訴人に対し請求しないことを約したことが明らかである。また、右和解成立後に控訴人が本件工事につき支出したと主張する費用も、前記認定事実に照らして、控訴人において当然被控訴人に対しその支払を請求し得べき筋合のものではないといわねばならぬ。したがって、控訴人の相殺の抗弁は、いずれも理由がない。

<以下省略>。

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